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2011年6月29日 (水)

変転の合理―――アララな生活3

えいりあん・めもらんだむ

 インスリンは、血糖値を下げるホルモンである。
 グルカゴンは、血糖値を上げるホルモンである。

 ここの読者の大半は、こういう認識なんじゃない?
 とすると、高インスリン血になっている人以外は、グルカゴンを忌み嫌う?

 でも、べつに血糖値を上下させるために、これらのホルモンがあるわけではなくて、血糖値の変化は各ホルモンの作用の結果だと考えたほうがいい。本来の作用は、

 インスリンは、アナボリック(同化)ホルモンである。
 グルカゴンは、カタボリック(異化)ホルモンである。

 アナボリック(同化)作用というのは、食べた栄養(エネルギー)から身体を作ること。
 カタボリック(異化)作用は、身体を分解してエネルギーにすること。

 カタボリック、と聞いただけで拒絶反応を起こすのは、筋トレやっている人。
 ウエイト・トレーニーにとって、カタボることは故障することと並ぶ恐怖の対象だから。

 休日だけのなんちゃってトレーニーの私でも、カタボリックの文字にはビビるもん。

 でも、よく調べると、話は変わるのだ。

長文注意報! 興味とお時間のある方は、お進みください。

 インスリンのアナボリック作用は、グリコーゲン貯蔵のみで、タンパク質合成には効かない。

 つまり、ウエイト・トレーニーが期待するアナボリック作用=筋肉増強という意味では、インスリンはアナボリック・ホルモンとは言い難い。

 そりゃ、そうだよな。
 もしインスリンにタンパク質合成促進作用があるのなら、ボディビルダーはみんなアミノ酸飲んでインスリン注射するわ。危険なアナボリック・ステロイドなんか使わないで。

 トレーニーが目指すネット・アナボリズム=筋タンパク質の増加に関する限り、インスリンは、むしろアンチ・カタボリックホルモンと呼ぶべきものである。つまり、インスリンはカタボリック・ホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制することで、ネット・アナボリズムに寄与するのだ。

 じゃあ、グルカゴンはやっぱりカタボリックなんでしょ?

 ふふん、ここでさらに話をもう一捻りしようか。

 グルカゴンは何をカタボるのか。

 実は、グルカゴンが分解する相手は脂肪なんだなあ。
 グルカゴンは脂肪細胞内のホルモン感受性リパーゼを活性化させて、脂肪細胞内の中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに加水分解する。(しかし、筋肉細胞にはほとんど作用しない。)というわけで、

 インスリンは、脂肪蓄積ホルモンである。
 グルカゴンは、脂肪分解ホルモンである。

 こう書くと、突然グルカゴンがいいヤツに見えてこないか?

 実際のところ、いわゆるローカーボ・ダイエットで初期に体重が急に減るのはグリコーゲンとともに水が抜けるからだが、その後に体脂肪率も落ちて行くのは相対的にグルカゴンの働きが盛んになったためである場合が多い。
 だから、減量したい人、体脂肪を落としたい人が、グルカゴン分泌を亢進させて、身体を グルカゴン作用>インスリン作用 状態に持って行くのは理に適っている。

 でも、私は減量したいわけではない。体脂肪は、むしろ一定量をキープしたい。(減りすぎた脂肪を一所懸命増やしたこともあるくらい。→過去記事:ファット・バーン・ブルース

 さて最後にもう一度、話をひっくり返そう。

 グルカゴンの作用で有名なのがもうひとつあるよね。
 糖新生を促進させる、という働き。

 私はこれはまっぴらだ。
 だって糖新生の材料となる糖原性アミノ酸は、筋肉から放出されるんだもの。
 つまり、グルカゴンは、肝グリコーゲン分解を促進させている限りにおいては筋肉に悪影響を及ぼさないけれども、糖新生まで起こさせるようになると、話は変わるわけ。

 いわゆる糖質制限信奉者からクレームが来そうだから、想定Q&Aを準備しておきましょうかね。

§ 糖新生は日常的に行なわれています。

→ はい、少しはね。でも、糖新生が血糖維持のメイン機構となるのは、肝グリコーゲン分解でまかないきれなくなるような時だけ。絶食15時間以上とか、激しい運動で肝グリコーゲンを枯渇させた場合ね。それまでは、肝グリコーゲン分解が主流でしょ。どうか定量的な話をしてね♪

§ 筋肉は毎日分解・合成されています。

→ はい、確かに筋肉は代謝回転しているわよ。筋肉組織のタンパク質の半減期は約180日、つまり180日で半分が分解・再合成される。でも、今から6ヵ月後、筋肉を構成するタンパク質の半分が分解されたとして、きっかり同じ量が合成されると保証してくれる? できないでしょ? ここでも定量性が確保されないと、話にならないのよね。

 50%のタンパク質が分解されて、仮に49.9%しか合成されなかったら、筋肉は徐々に減って行く。ていうか、これが加齢に伴って起こっていることなのよね。

 実際、平均年齢24.5歳と65.0歳の被験者グループに対し、血中インスリンレベルを調整して(5μIU/mLと15μIU/mLに)、下肢のタンパク質分解速度や合成速度、代謝回転を測定した実験では、インスリンのアンチ・カタボリック効果は老人のほうが鈍くなっていることが示されている。(E.A. Wilkes, A.L. Selby, P.J. Atherton, R. Patel, D. Ranlin, K. Smith and M.J. Rennie, Am. J. Clin. Nutr., 90, 1343, (2009)←無料で全文ダウンロードできます♪)同じ量のインスリンが血液中にあっても、年寄りは若者に比べてカタボリズムを抑制する力が弱い、ということ。なぜかは書いていないのだけれど、想像するに、インスリンのグルカゴン抑制作用が年とともに弱まるのではないかしらねえ。アンチ・カタボリックという作用に関しても、加齢に伴いインスリン抵抗性が高まる、という言い方をしてもいいかもしれない。
 ところで、この実験で設定された血中インスリン濃度の多いほうの15μIU/mLという値は、いわゆる「健康的な」低GI(グリセミックス・インデックス)食を軽く摂った後のIRIと同程度だそうで、若い人ならこれで充分にアンチ・カタボリック作用が発揮されるけれど、年寄りではそれが上手く行かなくなっている。これがサルコペニア(加齢性筋肉/筋力減少症)の原因のひとつ。

 私なんてウィークエンド・トレーニーに過ぎないし、トシ行っているし、女だし、そうそう筋肉が増えるわけないってことは実は最初からわかっているの。土日祝日ほとんど毎回トレーニングして、筋量維持がやっとなのよ。だから、半年で50%の筋タンパク分解を50.1%の側に促進するようなことは真っ平ゴメンなのっ。(>_<)

 というわけで、結局私は、カタボリック・ホルモンであるグルカゴンの分泌を抑制したい。
 どうやら分泌亢進しているらしいグルカゴンを、減らしたい。

 減量やら脂肪燃焼やらをしたい人は、代謝をどんどんグルカゴン支配にしたらいいと思う。
 すでに標準体重やそれ以下の体重で下げ止まっているのに、なおも厳しい糖質制限(1食につき糖質4gとかね)を続ける人は、低インスリンな生活を目指しているのだろうか?

 しかし、元から低インスリンな私は、むしろ、
低グルカゴンな生活がしたいぞ!

 インスリン分泌を増やすのは無理だろうけれど、亢進しているグルカゴン分泌を低下させるのはできるんじゃない?
 α細胞よ、休んでおきたまえ、ってことよ。
 β細胞を休ませよう、という話はよく聞くけれど、その間α細胞がはりきって働いてくれたのでは、私は困るの。αもβも同じレベルまで休んでいてくれないと、インスリンとグルカゴンのバランスが狂って、相対的にグルカゴン過剰になってしまうじゃない。(私は、もうそうなってしまったのだと思うのだけれど。)

 でも、高タンパク食を止める気はないのよね。筋肉つけたいから。
 むしろプロテインなんか飲みだしたから、タンパク質摂取量はますます増えているし。

 高タンパク食を続ける範囲内で、できるだけグルカゴン分泌を抑制するために、空腹時の血糖値をなるべく90 mg/dl(私のSMBG値で100 mg/dlくらい)にキープすることにした。このあたりが、いちばんグルカゴン分泌が少なくなる血糖値だという文献データを信じて。(→過去記事ダメージ・コントロール:運動と血糖調節4参照。)

 カーボ2 gのチョコを1時間半おきに1個、とか。
 私にとって血糖値がもっとも下がる夕方には2個、とか。
 寝る前にあえてカーボ4 gを含むプロテインを飲んだり。

 食後高血糖は出さないけれど、血糖値のベースラインを上げるわけだから、当然HbA1cは上がるだろう。
 それは覚悟の上。

 だいたい血糖値にしろHbA1cにしろ、元々ゼロにはなり得ないものであるし、低ければ低いほど良いってものでもないだろうと私は思う。(ここらへんが糖質制限信奉者の皆さんとは違うのだろうなあ、たぶん。)
 低血糖は危険だ。(まあ、私はならないから関係ないけれど。(^-^)\→過去記事:ボトム・アウト)HbA1cについては、合併症発症確率が上がらない範囲であれば、ことさらに下げる意味があるとは思わない。

 私の場合なら、筋肉つけたいから高タンパク食は止めないし、トレーニング中の血糖上昇もある程度までは許容する、みたいな諸々の条件の範囲内で、できるだけ低くすればいいと思うのだ。

 As Low As Reasonably Achievable
 合理的に達成可能な限りにおいて低く

 放射線防護に関するアララ原則―――まさかこんなタームが一般紙に載る日が来るとは思わなかった。

 糖質制限をしつつ浴びるように酒を飲んでHbA1cを下げるというやり方が、"reasonably"=合理的な方法だとは、私は思わない。(→過去記事:エンプティ・スピリッツ、チキン・ハート

 私にとっては、亢進しているらしいグルカゴン分泌を低減させることができるならば、そのほうがよほど合理性がある。グルカゴン分泌が少なくなるような血糖値を維持するという条件下で、できるだけHbA1cが低くなれば、それでいい。前よりは上がるだろうけれど。

 そんなわけで、空腹時血糖値を90 mg/dl(SMBG値で100 mg/dl)にキープすべく、血糖微調整アイテム=2 g程度のカーボを小刻みに投入するという生活を続けること3ヶ月。

 果たして、HbA1cは上がったねえ。

(あ、この話は冬から春にかけての話なの。記事アップが遅くてすみません。)

Jandata_1_4  

Aprdata_1_2

1月の検査結果:血糖値88 mg/dl、HbA1c 4.7 %(JDS値)
4月の検査結果:血糖値86 mg/dl、HbA1c 5.4 %(JDS値)

 うーん、実に0.7 %の上昇。

 以前の私ならパニクったろうなあ。

 でも、すっかりスレた今では、5.4 %という数字を見ても、
だからHbA1cは当てにならないのよ
としか思わなかった。

 だって、食後高血糖は出していないもの。
 5.4 %(JDS値)なら、微小血管障害リスクは無問題だし。
 大血管障害は、この程度のHbA1cでも起こる人には起こるし、起こらない人には起こらない。要するに、指標にならない。

 やっぱりHbA1cは基本的に食後以外の時間帯の平均血糖値と相関するだけで、食後高血糖の有無は評価できないのね、と再認識しただけだった。

 このシリーズでは話を単純化するために、あえてインスリンとグルカゴンの拮抗だけしか採り上げなかったけれど、それでもその作用をどう捉えるかによって、これらホルモンへの見方は二転三転する。作用が拮抗するからといって、どちらが良くてどちらが悪いというものでは決してなくて、要はバランスの問題なのだ。

 まして、血糖値に影響するホルモンは他にもたくさんある。
 複雑すぎて全容は理解できないし、とても記事には書けないけれど、上司とバトルしたり、ちょっとハードなトレーニングをするだけで血糖値が上がる私は、当然、糖質コルチコイドやアドレナリンのことも気にしている。私は潜在性(ときどき顕在化)甲状腺機能低下症も抱えていて、甲状腺ホルモンは全身の代謝を上下させるから、自分の現在の甲状腺機能がどの程度なのかは常に意識している。(1月も4月も、甲状腺の検査結果は私にしてはとても良かった♪)トレーニング日には、テストステロンのエストロゲンに対する相対的レベルが高くなっている日なんだっけか低いんだっけか、と数えてみたりする。血糖値みたいに自分で測れないから、どれも想像するだけなのだけれど。
 ・・・それでも、まだまだ勉強不足なもので、私はホルモン側のことしか考えていない。本当は、レセプターの量と質も考慮に入れないといけないはずなのに。

 血糖に係るメタボリズムの原因を経口摂取する糖質だけに求め、その評価をHbA1cだけに依る手法は、大雑把に過ぎると私は思う。少なくとも、私の身体はその方法では記述できない。

 ともあれ、グルカゴンを抑制するつもりの生活を3ヶ月やってみて、HbA1cは上がったけれど、筋肉量はちょっと増えた。\(^o^)\

 まあ、そうこうしているうちに、ゴールデンウィーク後半から気温が上がって、私にとってはまた早朝空腹時血糖値が3桁のシーズンに入った(→過去記事:震えて眠れ――空腹時血糖値の季節変動(1))ので、わざわざ血糖微調整アイテムを投入する生活は終了した。夜のプロテインは続けているけれど。

Lcprotein

←だって、こんなボトルを買ってあるのだもの。
 隣の計量カップは500ccのもの。
 このほかに、別メーカー、別フレーバーのプロテインが2種類あって、飲み比べているのだ♪

 去年まではムカついた3桁の血糖値だけれど、私のSMBG値でちょうど100 mg/dlくらいということは、グルカゴン分泌量が少ない状態のはず。インスリン分泌は元々少ないし、夏の私は内分泌的にとても省エネモードなのかもしれない。そう考えると、今年の夏は安らかに眠れるわ♪


copyright (c) 2011- えいりあん
 転載厳禁。引用の際は、ブログ「血糖を管理する日々」に言及の上、リンクを張ってください。

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コメント

えいりあんさん

はじめまして。

最近えいりあんさんのブログを知り遅ればせながらご挨拶させていただきます。

今回のエントリーも大変興味深く
また大変参考になりました。

私はNGTですがダイエットに感心があり
このようなグルカゴンやインスリンについての記事は本当に勉強になります。

まだ全部の記事は読んでいませんが、
これからもまた残りの記事もとても楽しみです。

えいりあんさん、YCATさん、コメントされている常連さんのやり取りもとても参考になっております。

今後ともよろしくお願いいたします(^^)

投稿: ごろぞう | 2012年3月 7日 (水) 12:47

ごろぞうさん

 レスが遅くなり、申し訳ありません。

 NGTでいらっしゃるのですね。
 ご家族が糖尿病とか、あるいは検査上はNGTだけど実は食後高血糖が出る、というのでもなく、単にダイエットのためにここへいらしたのですか?

 ・・・うーん (u_u;;;

 糖尿病は予備軍を含めると5人にひとりだの4人にひとりだの言われていますが、それにしたって耐糖能正常な人のほうがずっと多いわけです。
 耐糖能正常者の場合、ペットボトル症候群みたいな無茶をしない限り、身体が自動的に血糖値を調節してくれますから、やれインスリンだのグルカゴンだの考える必要はほとんどないと思いますよ。

 糖尿病だけが病気ではないし、他のリスクファクター、たとえば血圧とか不整脈なんかを気にされるほうがよろしいのではないでしょうか?

 健康上なにも気になることがないお身体なら、こんな病気サイトより、フィットネス・サイトに出入りなさるほうが、ダイエットにも効果的でしょうし、よほど楽しいですよ♪

投稿: えいりあん | 2012年3月10日 (土) 21:10

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