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2011年6月 4日 (土)

不都合な真実―――アララな生活2

えいりあん・めもらんだむ

 実験データが取れない時は、文献を読んでレヴュー・ワークせよ、とかつてのボスは言った。

 かもしれない、ばかりの仮説など、人目にさらす価値はないもんね。
 そもそも「仮説」とは、過去のすべてのデータを包含した上で、なおかつ定説よりももっともらしい新モデルのことだ。勝手に想像しただけのファンタジーなら、自分のPCに保存しておけばいいのであって、広く全世界に公開する必要なんかない。

 肉だけを食べて、血中ホルモン濃度を追跡した文献を探したのだけれど・・・、見つからないのよねえ。だけ、って実験デザインが無いの。

 仕方がないので、食事のPFC(タンパク質-脂質-炭水化物)比率を変えた実験のデータを見てみた。

長文注意報! 興味とお時間のある方は、お進みください。

 まずは正常者での実験から。オランダの文献。(W.A.M. Blom, A. Lluch, A. Stafleu, S. Vinoy, J.J. Holst, G. Schaafsma and H.F.J. Hendriks, Am. J. Clin. Nutr., 83, 211 (2006).←全文無料でダウンロードできます。)

 高タンパクな朝食を食べた後の血中の各種ホルモン濃度を測定したデータ。この研究の主目的は、食欲増進ホルモンであるグレリンがどう変化するかということなのだけれど、インスリンやグルカゴンも測っていたので、そちらのグラフだけ拾ってきた。

 被験者は男性15人、年齢20.5±2.5歳(若いなあ)、BMI 21.6±1.9(いいねえ)。
 同じエネルギーで高カーボな朝食を食べた日と、高タンパクな朝食を食べた日で、その後のホルモン変化を追跡した。
 高カーボな朝食は、エネルギー1.63 MJでタンパク質19.3 %、脂質33.3 %、炭水化物47.3 %。これに対し、高タンパクな朝食は、エネルギー1.65 MJ、タンパク質58.1 %、脂質27.8%、炭水化物14.1 %だけ実験をやった私に言う資格はないけれど、タンパク質58.1 %ってかなりなもんよね。

 インスリンの変化は、これ。□が高カーボ食で、●が高タンパク食の時のデータね。横軸は、朝食後の経過時間(分単位)。

Iri_hp_ngt

 当然のことながら、高カーボのほうがインスリンは多く分泌されている。ピークは食後30分。うーん、さすが若い正常者だなあ。1時間以降のインスリン分泌量は、大差なし。

 一方、グルカゴン

Glu_hp_ngt

 高カーボ食を食べても、分泌量は食前値からほとんど増えないのに対し、高タンパク食後では空腹時の倍ほどに上がって、3時間経っても下がって来ない

 ああ、血糖値はもちろんほとんど変動していない。正常者だもんね。(縦軸のグルコース濃度の数字に18をかけたら、mg/dl単位の血糖値になります。つまり、5mmol/L→90mg/dl、6mmol/L→108mg/dl。次からは各自換算してね♪)

Bs_hp_ngt

 というわけで、血糖値を見ている限りではわからないけれど、高タンパク食を食べると身体の中ではグルカゴンがたくさん出て、血液中に何時間も居座るのだ。

 ではお待ちかね(?)、2型糖尿病患者に高タンパク・低カーボな食事をさせた場合。(M.C. Gannon and F.Q. Nuttall, DIABETES, 53, 2375, (2004).←これも全文無料でダウンロードできます。日本語の概要は、こちら。)

 被験者は軽症糖尿病の男性8人、平均年齢63.3歳、平均BMI 31。(たぶん退役軍人だと思う。)
 朝食+昼食+間食1+夕食+間食2で、トータル2825 kcal、タンパク質30 %、脂質50 %、炭水化物20 %の食事を5週間続けて、ビフォー&アフターを比較した。
 上で紹介した正常者の論文のように1回の食事ではなく、高タンパク・低カーボな食生活を5週間継続したら、身体がどう変わったか、という実験。▲がビフォー、●がアフター。

 まず、血糖値。そりゃ、下がるって。

Bs_lobag

 血中インスリン濃度。
 これまた減少する。処理すべきカーボ量が減ったのだから、当然よね。

Iri_lobag

 そして、血中グルカゴン濃度。

Glu_lobag

 増加
 朝食前の値はベースラインに戻っているものの、睡眠中を含めて1日中高レベルになっている。

 つまり、高タンパク・低カーボ食を続けていると、グルカゴン分泌が亢進するみたいよ?

 本来、高血糖になると血中グルカゴン濃度は低くなるのが一般的だが、2 型糖尿病では血中インスリン濃度に比べ相対的に過グルカゴン血症になっていて、これが高血糖に関与しているというのが、Ungerが1975年頃に唱えたbi-hormonal hypothesis(二ホルモン仮説)。これに対して、高血糖にはインスリン抵抗性が大きくなる寄与のほうが重大だといった論争とか、グルカゴンの分泌亢進は二次的なもので血糖値を正常化すれば治るとか、いろんな議論があったみたい。
# ここ、突っ込まないで。素人なんで・・・(^^;;;

 でもねえ、糖尿病患者はインスリンが少ないとか(多いとか)、グルカゴンが多いとか(いや、並みだとか)、そう単純に決め付けられない、というのが今の時代の理解よね?

 ひとくちに糖尿病患者と言っても、インスリンに関しては、完全枯渇している人から、低分泌の人、分泌量は正常な人、むしろ過剰分泌している人までさまざまよね。詳しく書くと、1型さんやβ細胞が死滅した2型さんでは完全枯渇だし、私みたいに境界型のくせに低分泌な者もいる。インスリン抵抗性のために、普通のインスリン分泌がありながら血糖値が上がっている人もいれば、代償性過剰分泌で血糖値は正常範囲に押さえ込んでいる人もいる。

 だったら、グルカゴン分泌だって、低分泌から高分泌までいろいろな人がいるのではないだろうか? 測っていないから、わからないだけで。

 血糖値は、インスリンとグルカゴンの分泌量の相対的な多寡の結果だ。

 糖尿病であっても、インスリン分泌がそこそこ保たれていて、かつグルカゴン分泌があまり亢進していない人であれば、肉食をしても血糖値は上がらないだろう。

 でも、高タンパク食の結果として、グルカゴン>インスリン状態になってしまうなら、血糖値は上がるはず。これが私の身体で起こっていることなのだろうと思う。

 グルカゴン作用を抑制するには、15 - 30 mU/l程度のインスリンで充分らしい。(←この話は、現在オリジナル文献を探索中です。ソースを貼れなくて、すみません。<(_ _)>
 これは、インスリン抵抗性高めの人にとってはデフォルトだし、分泌低下していない人ならちょっとカーボを食べれば到達できるレベル。だが、75g-OGTT(糖負荷検査)の2時間値でようやく23.6μU/ml(=23.6 mU/lだよ、もちろん)の私にしてみれば、とんでもなく高いハードルだ。

 私はインスリン低分泌、そしてどうやらグルカゴン分泌のほうは亢進しているらしい。

 さて、どうしましょうかね?


copyright (c) 2011- えいりあん
 転載厳禁。引用の際は、ブログ「血糖を管理する日々」に言及の上、リンクを張ってください。

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コメント

とても勉強になりました。自分の体の詳しい数値を知りたくなってきますね。
私も肉食(蛋白質)はとにかく上がらないとばかり思っていたので、本当にお恥ずかしい…。
夜肉食だけの実験をした時の朝の空腹値が高くなるのは当たり前ですね。
もっと勉強して糖尿と仲良くやって行きたいものです。

投稿: 蓮 | 2011年6月 5日 (日) 08:46

えいりあんさん、初めまして。二年前よりブログを拝見させて頂いております。
いつもご自分の症状をよく見つめていらして、その傾向と対策が素晴らしく勉強させて頂いております。
今日、久し振りに265という驚きの1h食後血糖値が出まして2hも30分歩いて193しか下がりませんでした(誤差を考えても140以上です)二年ぶりに200超えしましたが、やっぱり立派な糖尿病(耐糖能異常)なんではないかとつくづく思います。
HbA1cを一年、検査していないので明日、専門外来に行ってきます。私も夏になると血糖値が上がってしまいます(>_<)
今日は食間(おやつ)にマルトースのチョコレートと人工甘味料のゼリーを食べたのですが、これは糖質とカウントされなかった為に(何も食べていない状態と判断され)血糖値が跳ね上がったのかとも。
とにかくショックです・・。

投稿: あおい | 2011年7月11日 (月) 22:45

あおいさん

 ようこそ♪

 2年前から・・・ということは、私がここに記事を書き始めてからずっとROMしていらして、今回、初コメントを入れてくださったわけですね?
 それは嬉しいこと(*^-^*)

 私はここのゲストライターなので、記事ごとのアクセス数とか全然わからないのですよ。自分的には渾身の力作のつもりの記事にひとつもコメントが付かずスルーされると、さすがに脱力したりして。
 実はROMしていました、という方がカミングアウトしてくださると、気分がほんわか♪

 ええと、前から読んでくださっていたのならご承知と思いますが、私はここで『方法論の提示』をやっているつもりです。

>私も夏になると血糖値が上がってしまいます(>_<)

 (゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマ
 でも、YCATさんは逆に冬に上がるんですよね。

 そんなふうに、耐糖能異常でも傾向は人それぞれ違います。違っても、自分の傾向を把握するには、こんな人体実験をすればいい。そうして自分なりの傾向をつかんだら、今度はそれを変えて行くには、こんなアプローチがあるんじゃないか。そういうひとつの実例として、自分のことを書いています。

 あおいさんのスペックがわかりませんので、265の血糖値についてはコメントできませんが・・・
 75g-OGTTで正常型の人でも、もともとインスリン低分泌で、しばらくローカーボな食事をしていていきなりカーボを摂ると血糖値200mg/dl越えすることはありますよ。(←実例を知っています。)グルカゴン優位の代謝になっていると、突然のカーボに対してインスリンが出遅れるからでしょうね。もっとも正常者は次の食事からちゃんとインスリンが間に合うように戻りますが。

投稿: えいりあん | 2011年7月12日 (火) 22:14

お忙しい中、お返事を頂きましてありがとうございます。
私もこのローカーボで数値が跳ね上がることを度々、経験しています。数値をみるとホントに驚きます。あとはえいりあんさんのご指摘の通り、グルカゴン放出が関係して血糖値が上昇しているような気もします。なので突然の血糖値上昇を抑える意味でも食間のおやつ(少しの糖質)は大事です。
昨日、ちょっと考えたのですが、夏の高血糖は自律神経を悪くしているからかな?とも(私の場合)。血圧が下がり脈拍が上がりで夏はちょっとシンドい時がありまして。
昔はよく低血糖になっていたので、低血糖から一気に血糖値が上がる典型的な耐糖能異常なのかもです。
痩せ型なので、ストレスや自律神経が血糖値に影響しているのではないかとも・・。
病院は専門医の予約がとれなかったので、旅行から帰ってから再度、予約を入れてみます。一昨日の高い数値は生理前も関係していたのかなぁとも。
えいりあんさんのブログは本当に興味深く的を得てる内容に思いますよ。拝見してはお世話になっております(^-^)

投稿: あおい | 2011年7月13日 (水) 16:18

あおいさん

 再びのコメント、ありがとうございます。

>突然の血糖値上昇を抑える意味でも食間のおやつ(少しの糖質)は大事です。

 そうそう。糖質を悪と決めつけて毛嫌いするのではなく、上手に使わなくちゃね♪
食後高血糖さえ出さなければいいのだから。

 あおいさんは低血糖になれる方なのですね。ということは、(あるタイミングでは)インスリンがかなり分泌するわけで、私としては羨ましく思いますが、コントロールはより難しいでしょうね。
 私はどうやっても低血糖にはなれません。←自分が耐糖能異常だと知ってすぐに、これを確かめました。朝ごはん抜きで走る、とか、朝から夕方まで絶食して血糖値を測り続ける、とか結構厳しい人体実験をして。二度とやる気はしませんね。(^^;;;

 ストレスは血糖値を上げます。私なんて出張に行くと、それだけで上がります。お気楽な仕事でも、非日常というストレスがかかるせいだと思います。

>えいりあんさんのブログは本当に興味深く的を得てる内容に思いますよ。

 ありがとうございます。
 また気が向いたら、コメントお願いします。


 そして、ほら、今カウンタを回しているROMのアナタ! さあ、コメント欄へどうぞ。そのうちYCATさんからゲストライターへのご招待が届くかもしれませんよ♪
・・・そして私のように足抜けできなくなるのよ・・・

投稿: えいりあん | 2011年7月13日 (水) 22:19

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