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2010年11月17日 (水)

西欧の正常――続・耐糖能の日内変動2

えいりあん・めもらんだむ

 YCATさんが新作記事の3つや4つや5つアップしてくれるだろうという期待が裏切られ続けること半月余、あまり間が開くのもよろしくないので前編の続きを書きましょうかね。

 朝食後の血糖値上昇が1日のなかで最も大きいと紹介されていた、欧米の健常人のCGM(持続血糖モニタリング)の検証。オリジナル論文はこちら。(私って、他人の引用は、基本的に信用しないのよね。)

 ドイツはUlm大学のチームの仕事。ロシュが協力。
 被験者は24人の健康ボランティア。男女12名ずつ。年齢27.1±3.6歳(若い!)、BMI22.6±1.7。糖尿病でもIFG(空腹時高血糖)でもIGT(耐糖能異常)でもなく、特に慢性疾患もなく、妊娠中でも授乳中でもなく、抗凝血剤の服用もしておらず、アルコールないし薬物依存が疑われることもなく、きついアレルギーも出ていない人たち。
 もちろんHbA1cも正常で、5.0±0.2 %。
(ここで、20代の耐糖能正常者でもHbA1c4.8~5.2 %なら自分とあまり変わらないじゃん♪と思ったIGTなアナタは、深く反省するように。これはドイツのデータだから、HbA1cは当然NGSP値。JDS値では、およそ4.4~4.8 %に相当する。)

 24人のみなさんに1日目の夜にCGMを装着して、2日目と3日目は実験用のメニューの朝食・昼食各2パターンを食べてもらい(夕食はバイキングですって)、4日目は各自帰宅していつもの食事をしてもらう(ただし食事時間は指定)という実験プロトコル。

 朝食後にいちばん血糖値が上がったというデータはこれ。各自おうちでいつもの食事を摂った日の測定。

G_cgm_everydaylife

 装置の不具合でデータが取れなかったのが3人いたそうで、残り21人のCGM結果を平均したのが真ん中の太い線。
 なるほど、朝のピークが一番高くて、次が夕食で、昼が最低。

 さてさて、前記事を読んでくれた方なら、ここでどう突っ込むかはおわかりですよね?

 おうちに帰って、何食べたのさ?


長文注意報! 興味とお時間のある方は、お進みください。

 ドイツチーム、えらい。

 被験者に撮ってもらった各自の食事の写真を基に、栄養成分を推定している。21人分の平均値は、

朝食:619±266 kcal、炭水化物84.2±39.2 g、タンパク質19.7±10.0 g、脂質21.2±11.9 g
昼食:786±324 kcal、炭水化物74.0±37.9 g、タンパク質34.6±13.1 g、脂質37.6±19.8 g
夕食:887±383 kcal、炭水化物94.9±35.5 g、タンパク質40.1±17.1 g、脂質37.9±25.0 g

 炭水化物のエネルギー比は、
朝食:56.5±11.2 %、昼食:39.6±13.3 %、夕食:45.9±11.1 %

 エネルギーに占めるパーセンテージは、朝食が一番高くて、次が夕食で、昼が最少。CGMデータの血糖値ピーク高さの順番と一致。へえ、ドイツ人って、昼に食べるカーボが少ないのね。
(なんて議論はこの論文には書いてなくて、データを読んだ私が勝手に解釈しただけなんだけどさ。\(^-^)\)

 しかし、この論文のキモはここではない。
 この実験のために特別に用意された2日分の朝食と昼食が美味しいのよ♪

 炭水化物量は50 gで一定として、低カロリーと高カロリーの食事を用意。つまり、ほとんどカーボの高(パーセンテージ)カーボ食と、タンパク質&脂質たっぷりこってりの低(パーセンテージ)カーボ食での実験。著者たちの趣旨としては、吸収の早い食事と遅い食事の実験ということなのだが。

 炭水化物50 g、低カロリーの朝食と昼食のデータは、これ。

吸収の早い朝食
G_lowe_brkfst

吸収の早い昼食
G_lowe_lunch

 被験者の血糖値ピークの平均は、朝食でも昼食でもほとんど同じ。昼食のほうが少し下がるのが遅い。

 次に、炭水化物50 g、高カロリーの朝食と昼食のデータ。

吸収の遅い朝食
G_highe_brkfst

吸収の遅い昼食
G_highe_lunch

  この論文の著者たちは、朝食でも昼食でも、食物繊維やタンパク質や脂質がちゃんと含まれた吸収の遅い食事では、吸収の早い食事に比べて血糖値が上がらないということを結論としている。耐糖能正常者でもこうなのだから、ましてや糖尿病患者においては、どんな食事を摂るかが大事でしょ、って。

 たしかに吸収の早い朝食でピーク血糖値平均が133 mg/dlに達したのに対し、吸収の遅い朝食ではわずか99.2 mg/dlにおさまるという効果は歴然としている。でも、カーボ50 gでいいのなら、そして朝なら耐糖能異常の私だって、似たようなこと出来るもん。(→モーニング・マジック

 それより私としては、吸収スピードの差よりも、朝食と昼食という摂食タイミングの差のほうに興味がある。

  特に、炭水化物50 gでタンパク質も脂質もありの吸収の遅い食事での、朝と昼の食後血糖値レベルの差。これは、ちゃんと魚肉や野菜を一緒に食べるのであれば、血糖値は、朝は上がりにくく、昼は比較的上がりやすいということを意味しているデータよね。耐糖能正常な人でも。

 同一条件での食事ならば、朝は血糖値が上がりにくく昼は上がりやすい、というのが耐糖能正常者でも一般的な傾向なのだとしたら、私みたいにその差が顕著になっていく=昼の食後血糖値ピークが高く跳ね上がるようになる、というのが耐糖能異常の最初のステップなのでは?という気がしてきた。そのうち夕食後も上がり、朝食後も上がり、食後に限らず血糖値の制御ができなくなって空腹時血糖値も上がってしまう・・・というのが正常型→境界型→糖尿病への進展コースなのではないだろうか。

 それにしても、若くて健康な耐糖能正常者での実験なのに(そして一般に強靭なβ細胞能を持つ西欧人での実験なのに)、なんで炭水化物50 gなんて控えめな設定にしたのだろう? 日常食の記録からの推定では、みんなもっとカーボを食べているのに。
 ヘタレなβ細胞の持ち主である私から見ると、むしろこの実験で血糖値ピークが出たことのほうが驚きだ。肥満していない20代の健康な欧米人だったら、カーボ50 gくらい、どう食べようが吸収の遅い朝食のグラフみたいな血糖応答をするものではないかと思っていた。被験者の平均値こそ決して140 mg/dlを越えてはいないが、95パーセンタイルでは160 mg/dlとか180 mg/dlなんてピークが出ているではないか。健康な耐糖能正常者なのに。(まあ24人の母集団に対して95パーセンタイルなんて統計的に意味があるのかという問題もあるが。たぶん、いちばん高かった人があんな血糖応答だったのでしょうね。それでも若くて健康な耐糖能正常者のデータであることには変わりない。)

 とまあこんなふうに、このドイツチームの仕事はインプット(=食事)の内容をきちんと書き込んでくれているので、アウトプット(=血糖値)のデータと比較参照してあれこれ考えることができて、とても面白かった。専門外の原著論文を読むのはなかなかしんどい作業なので、このくらい緻密な研究報告でないと読後がむなしい。
 前記事で取り上げた中国チームの仕事は、実験条件の詰めがイマイチ甘かったけれど、被験者数が10倍という点が際立っていたわよね。マンパワーに物を言わせて中国が台頭するのは、どこの分野でも同じかあ。
 翻って日本は、・・・日本は・・・、(以下ry

 昨年秋、YCATさんから、このサイトにゲストライターとして記事を書かないかという打診をいただいた時に、
「境界型から糖尿病にどういうふうに進むのかという記録はどこにもないのだから」
と言われた。だから私は、その記録を公開するつもりで書いている。
(それにしても、ずいぶんな口説き文句よね。それに乗る自分もどうかと思うけれど。)

 境界型として、私は、自分のどの部分がすでに糖尿病なのかということ血糖値200越え~\(◎o◎)/!とかねと同じくらい、まだ正常者とオーバーラップしているのはどの部分なのかということも把握しておきたいと思う。
 だから、耐糖能正常者の血糖応答にも興味津々なのだ。

 すでに糖尿病型の段階の方には役に立たない情報かもしれないけれど、そういう読者の期待にはYCATさんが応えてくださる(←断定)ので、私は我が道を行かせてもらうわね♪


copyright (c) 2010- えいりあん
 転載厳禁。引用の際は、ブログ「血糖を管理する日々」に言及の上、リンクを張ってください。

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コメント

 さすがドイツ人ですねえ。やるもんです。
 こうありたいって……それが科学するものの基本姿勢ですよね、えいりあんさん。
 内容については、もう一度読んでからコメントします。

 たらふく食った札幌から戻って、血液検査のデータなど、ネタはたまっているのですが、ほら、例の新薬騒ぎに加えて、臨床試験の管理問題を朝日新聞と医学界がけなしあうって事件もあったりして……。
 週刊新潮が、医師の威を借りて、ここぞとばかり朝日をたたいていますが、どうも、この件は、朝日新聞に分がありそう。とんちんかんや、無知な記者もいっぱいいるけど、癌学会、癌免疫学会にそれを支持する医学会の感覚のほうがおかしい(´ヘ`;)
 しろうとがわかる範囲(自分の状況)を書き綴っても、そこに何の意味がある?
 どうせ、アホばっかりじゃん(´ヘ`;)
 そんな風に思っちゃうと、ずるずるしちゃうんですよ。

 マリンちゃんにいじめられっぱなしだったり、まやさんがらみでいろいろ疲れたりってのもあるけど、しらけの元は「バカの壁」
 それについては、記事にできるかどうかわかりません。
 もうちょっと様子を見たくもあるし。
  
 帰京後、取り寄せした5種類の絶品(^!^)クリームブリュレ。
 それを落花狼藉した写真を近日公開予定。
 SMBG(血糖自己測定)データ付き。
 今日、明日に撮影しないと、アルミホイルだけしか写らない。実においしゅうございます(^!^) 主食は、ほとんどこれ。

投稿: YCAT | 2010年11月18日 (木) 00:19

>どうも、この件は、朝日新聞に分がありそう。

 えーーー?!
 週刊新潮は読んでいませんが、アカヒ新聞の元記事はダメダメでしょ。
 私は医科研を応援しますね。徹底的に喧嘩してくれないかとwktkで見ています。

投稿: えいりあん | 2010年11月18日 (木) 22:36

ドイツナイス!!さすがビールの国!!(関係ないですね(笑)
しかしあれですね。前回と今回の内容から、結局のところ『病気としての判定基準ってほんとはどこにあるの?』って感じになりました。
糖質〜100gまで位でいいなら、NGT並の結果を出す自信はありますが、
とあるドクター曰く『どら焼何個食べようが血糖値は140超えないのが正常だ』というのなら、NGTとして認知されてる人でもCGMSでは『あれ?超えてるぞい?』って結果ですし(~ヘ~;)
まあ、一度300超えた私が今さらそこを言及してもあまり意味はないのかな(どら焼何個も食べる気にならないし(笑)
でもでも気になるのが人間のサガ。

自分の耐糖能を把握しきって、食事を考え、トレーニングで肉体を極めて、それこそ長寿を全うしたとき、糖尿病とは、境界型とは、正常型とはなんぞや?という疑問も解けるのかな?

投稿: 蝶々 | 2010年11月21日 (日) 20:57

>蝶々さん

>糖質〜100gまで位でいいなら、NGT並の結果を出す自信はあります

 蝶々さんの場合、今の運動習慣(週4でしたっけ?)を続ける限り、普通の混合食ならまず問題ありませんよね。
 よく「糖質制限を続ける限り正常人」なんて言われますが、蝶々さんのように「運動を続ける限り正常人」というケースもあるということが、もっと知られたらいいのに、と思います。

>NGTとして認知されてる人でもCGMSでは『あれ?超えてるぞい?』って結果

 NGTであれば、140を越えてもどうってことないのか、それともそれはやはり危険な兆候なのか、ってことを早く明らかにして欲しいものです。

投稿: えいりあん | 2010年11月23日 (火) 15:51

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