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2009年11月22日 (日)

宿痾

えいりあん・めもらんだむ

 シックデイになると血糖値が上がる。

 病気だけでなく、怪我しても上がる。手術なんぞ受けた日には、ふだん糖尿病とは言われていない人でも高血糖になることがあるという。surgical diabetes(外科的糖尿病)1)なんて言葉があるくらい。

 これって、おかしなことだと思いませんか?

 高血糖だと傷は治りにくいし、感染した細菌には餌をやるようなものだし、免疫反応も鈍らせるし、良いことはないじゃありませんか。
 こんなろくでもない現象を、「私たちの体は病気になると、血糖が上昇するようにできている」2)と言われて、納得できますか?

 ・・・みなさん、納得されているのでしょうか。
自然が作り上げた仕組みとしての身体の反応に間違いはないだろうと信じて?
神の御業だから?

 病気と闘うためにいつもより余分なエネルギーが必要だから?
 シックデイや負傷時には寝込むのだから、活動性が低下した分のエネルギーを使えばいいでしょ。
 エネルギー供給を上げるために高血糖にするというのなら、動けるようになってから、つまり病気や怪我からの回復期にすれば充分じゃない。

 それなのに、具合が悪くなり始めた当初から高血糖にするなんて、

  自然ってバカじゃね?

と思った私は、天に唾する不敬の輩か。

長文注意報! 興味とお時間のある方は、お進みください。

200pxlascorbic_acid_svg

 これはビタミンC。正式名称L-アスコルビン酸。

 ビタミンというのは、本来、微量で体内の代謝に重要な働きをするが、体内で生合成できない物質3)という意味である。

 人間にとってビタミンCは正真正銘ビタミンだけれど、ほとんどの動物にとってはビタミンではない、という話はご存知でしょうか?

 猫も(←YCAT様に敬意を表して筆頭に(^-^)\)犬も馬も、みんな体内でL-アスコルビン酸を合成できるのである。できないのは、人間と新世界猿と呼ばれる霊長類、モルモット、一部の鳥類くらい。4),5)

Test2_2

進化系統樹とビタミンCの生合成能
(原図は文献4)から引用)

 ビタミンCが不足すると壊血病になる、というのは良く知られた話で、だからヒトは食物からビタミンCを摂らなくてはならない。

 霊長類がL-アスコルビン酸を生合成できないのは、他の動物に比べ、酵素がひとつだけ足りないから。進化の過程で、なぜかその酵素(GLO:L-グロノ-γ-ラクトン酸化酵素)を失った。実は、L-アスコルビン酸になるひとつ前の物質(L-グロノ-γ-ラクトン)までは、霊長類の体内でも合成できる。霊長類のGLO遺伝子が機能しなくなったのは、約7000万年前と推定されている。6)

 突然変異でGLO酵素を失っても、霊長類が滅びることなく進化し続けられたのは、果実を食べてビタミンCを摂っていたから。7)あるいは、果実食を覚えたから、GLO酵素は不要品として棄てられたのか?

 ビタミンCには先に挙げた壊血病予防以外にも、重要な働きがある。
 いわゆる抗酸化作用というもの。
 ほら、食品にも、酸化防止剤としてビタミンCが添加されているじゃありませんか。

 この抗酸化作用に関しては、霊長類をはじめとするGLO酵素を失った動物は、別の強力な抗酸化酵素スーパーオキサイド・ディスムターゼ(SOD)を獲得することで対応した。7)

 実際、これら両方の抗酸化酵素を持つ哺乳動物では、SOD酵素の働きが盛んなほどGLO酵素の活性が低いという相補的な関係があり、霊長類をはじめとするGLO酵素を持たない動物では、SOD酵素活性はきわめて高い。8)

 ならば、壊血病にならない程度に食物からビタミンCを摂っている限り、何も問題はない・・・のだろうか?

 ところで、猫や犬やその他の動物は、その体内で何からL-アスコルビン酸を作っているのか、こちらはご存知でしょうか?

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 L-アスコルビン酸 の前は L-グロノ-γ-ラクトン、その前は L-グロン酸、その前は D-グルクロン酸、その前は・・・D-グルコース。

 ビタミンCの原料は、D-グルコース。

 そう、血糖


 ★☆★

 だから、動物にとって病気や怪我をした時に高血糖になるのは、とても有意義なことなのではなかろうか。血中グルコース濃度が上がることにより、L-アスコルビン酸に至る一連の反応がどんどん進み、抗酸化作用が高まるのだから。つまり、高血糖になることで、病気や怪我と戦う武器としてのL-アスコルビン酸の生産を増強することができるわけだ。

 ところが、ヒトの場合はGLO酵素がないのだから、この反応は進みようがない。

 何段階もの反応チェーンの最後のひとつが切れたからといって、流れを遡って大元を止めに行くなんて、そんな論理的なことを自然も神もするわけがない。

 かくして我々は、シックデイの度に無駄に高血糖になる身体を、先祖代々受け継いできた。

 だとしたら・・・

人類400万年の歴史、どころの話ではない。

これは、霊長類7000万年の宿痾

謝辞:ビタミンCとグルコースの関連について教えてくださった み様 に感謝いたします。ハンドル署名記事で昔のハンドルに対して謝辞を書いて意味があるのかという疑問もあるけれど、ご本人がここを発見なさったら一発でわかるから、いいでしょ。み様、あれからずっとこの問題を考えていたら、こんなことになっちゃったよ。インスリン低分泌遺伝子発現形であるってのは、滅ぶべき種の前線に居るということなのかもしれないね。なんちて、気分はちょっとティプトリー風味。:p)

参考文献

1)「生体侵襲と生体反応」(広島大学片岡研究室のサイトから)

2)「病気になった時の対策 シックデイ・ルール」(糖尿病ネットワークのサイトから )

3)「ビタミン」(日本語wikipedia)

4)Chatterjee, I.B., Science, 182, 1271 (1973).

5)「ビタミンCの真実」(東邦大学Virtual Laboratoryのサイトから)

6)「壊血病発症動物におけるアスコルビン酸合成不能の分子遺伝学的研究」錦見、八木、蛋白質核酸酵素, 35(16), 2866 (1990).

7)「エデンの園にて(2)」(北海道大学遺伝子病制御研究所サイト内「おもしろ分子生物学」のページから)

8)Nandi A, Mukhopadhyay CK, Ghosh MK, Chattopadhyay DJ, Chatterjee IB., Free Radic Biol Med., 22(6), 1047 (1997).

copyright (c)2009- えいりあん
 転載厳禁。引用の際は、ブログ「血糖を管理する日々」に言及の上、リンクを張ってください。

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コメント

 へええええええええええええええええ。
 とりあえず、5連発。
 たしかにレモン好きの猫って、さすがにいない。
 似た記述が福岡先生の本にもあったような気がするけど、こっちじゃなかったはず。また老後の楽しみができた……棺おけに入るまでに学習できるか、田舎じゃなくて、否か? 

 ン? 

 ってことは、猫はカーボを取らないと壊血病になる? 
 丈夫な肝臓で糖新生するにゃからノープロブレム。だから、肉よこせ?
 もしかすると運動不足より、過剰糖新生で脂肪生成やりすぎで肥満、猫糖尿病になっているかもよ。なにごともほどほど、昔のように、猫マンマで我慢してくれない?
 わがまま中年予備軍オヤジ同様、聞いちゃくれないか。あんたは自分で餌を稼いでいるわけじゃないでしょ――に(´ヘ`;)

投稿: YCAT | 2009年11月22日 (日) 14:16

すっごく興味深い考察です!

犬、猫のVCが体内で合成できるのは獣医で聞きました。
待合室で予防注射待ちの時に、
前の猫チャンの飼い主さんと、獣医師との会話で、
『先生~、うちのミーチャンはちっとも野菜、食べないんです。大丈夫でしょうか?』
『猫、犬、は肉や魚を食べてれば、VCは身体で合成できるから、大丈夫です。』

ほ=そうなんだ!と。
その時に更に、私は質問して確認しました・
で、人間(霊長類)のみ合成できないとは、知りませんでした。
人間以外のほかの動物でもできない種があると思ってました!!!

わぁ~面白い。難しいけど、読んでみます!

投稿: mitiyo | 2009年11月22日 (日) 23:09

初めまして<(_ _)>
ランキング応援していきま~す!

投稿: ワニ | 2009年11月23日 (月) 04:04

mitiyoさん、はじめまして。
 お名前はこちらの過去ログのコメントで存じ上げておりました。
 こんなマニアックな話を楽しんでいただけたようで、嬉しく存じます。(*^-^*)

 霊長類と他の哺乳動物との違いということに関しては、参考文献7)に挙げたサイト「おもしろ分子生物学」が読みやすいかと思います。「エデンの~」というタイトルの記事が、進化生物学がらみの話です。

投稿: えいりあん | 2009年11月23日 (月) 09:03

YCAT様

 このことを考え始めて以来、耐糖能正常者のシックデイの血糖値を知りたくてたまらないのですが、家族が協力してくれません。(u_u;;; うちの犬で測ってやろうか、とも思うのですが・・・、穿刺はさせてくれるでしょうが、血を一滴絞り出す間おとなしくしていてくれそうにないし。
 だいたいふたりとも夫も犬も風邪もひかないので、チャンスもありませんが。

投稿: えいりあん | 2009年11月23日 (月) 09:08

ワニさん
 はじめまして。
 コメントありがとうございます。

投稿: えいりあん | 2009年11月23日 (月) 09:15

おそらく初めまして。

 耐糖能正常の私ですが、二回インフルエンザ様症状で内科に罹ったときに二回とも採血をいたしまして、共に80未満でしたよ。
 SMBGもしようと思えば出来る環境にあるので、そのうちシックデーにおける食後の上昇具合も検証してみようかと思っています。
 因みに、私もえいりあんさん同様にかなり激しい日内変動がありますのでこれがどう変化するのか興味がありますねぇ。
 朝~昼ではデンプン1gにつき0.5~1.0mg/dl、夕方までは大体1mg/dl、夜だと1.5mg/dlという感じです。痩せ型です。

投稿: TG | 2009年11月24日 (火) 17:16

TGさん、はじめまして。

 貴重なデータご提供ありがとうございます。

 実は、この話について調べ始める前に、ひとつ私なりの仮説を立てました。

 シックデイには、確かにインスリン拮抗ホルモンが多く出て、一方インスリン作用は抑制される方向に身体は反応するけれども、だからといって普通の人が風邪をひくたびに高血糖になっているなんて思えない。ちゃんと働く膵臓は、身体のホルモン分泌傾向に逆らってしっかりインスリンを出して、血糖値をせいぜい140mg/dl未満におさえ込んでいるのではないか。
 ・・・だとしたら、耐糖能正常者は、シックデイでも血糖値は正常だけれども、ふだんより高インスリン血になっているのではないか?
 だったら、やはりシックデイに対する人間の身体の反応は、耐糖能正常者にも異常者にも、ろくなものじゃない。なぜなら、7000万年前から遺伝子に組み込まれた、一種のエラーだから。

 ・・・という話になると予想していたのです。が、耐糖能正常者がシックデイに高インスリン血になっているというデータを見つけられなかったので、書けませんでした。
 まあ、私はひとりの患者に過ぎませんから、アクセスできるデータベースも限られていますし、検索タームも不適切で発見できなったのだろうとは思いますが。


 TGさん、
>二回インフルエンザ様症状で内科に罹ったときに二回とも採血をいたしまして、共に80未満でしたよ。
まさか、この時に、血中インスリン濃度まで測ってはいらっしゃいませんよねえ?

投稿: えいりあん | 2009年11月24日 (火) 21:51

 ええ、残念ながら測っておりません。
HbA1cやGAも測っていなかったので個人的には不満でした(笑)

投稿: | 2009年11月24日 (火) 22:16

YCAT様、えいりあんさんお久しぶりです。 今(4/8)流れている、某メーカーの、ビタミンCのCMは、このブログを見て作った見たいですね。

投稿: めしの | 2010年4月 8日 (木) 17:59

めしのさん

 わたくし、TVを持っていないのですが、どんなCMなのでしょうか?
 TVを見るチャンスは、フィットネスクラブで有酸素系マシンに乗っている時と、老人ホームにいる母に面会に行く時くらいです。どちらも土日の午後ですが、運良くその時間帯に流れていれば見てみたいものです。

投稿: えいりあん | 2010年4月 8日 (木) 22:17

めしのさん。

 これですか? 
 ハウス ウエルネスフーズ「C1000」のLEMON編。
 他のCMも、数値化による<目に見える>化されていて、興味深いです。

 企業名、商品名を書いても、著作権を侵害することにはなりません。無償で宣伝になるから、むしろ喜ぶでしょう。

 企業広告のお手伝いは、おいやだからかしら? 
 
 なんだかなあ(´ヘ`;)って場合もないわけじゃありませんが、おおむね、私は明示しています。その方が話が早いので。

投稿: YCAT | 2010年4月 9日 (金) 00:26

YCAT様、めしのです。 メーカー名、商品名を書かなかったのは、基本的にコマーシャルが、始まるとチャンネルを変えてしまうため、メーカー名、商品名を覚えていなかったためです。番組中でも変えますので、1時間に延べ、100チャンネル以上見ています。

投稿: めしの | 2010年4月10日 (土) 21:15

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